投稿者 : sobashogun 投稿日時: 2024-03-05 14:47:34

 栃木・足利市の織姫神社参道の中腹に店を構える「蕎遊庵」。同店を営む根本忠明さんは、蕎聖として知られる一茶庵創始者・片倉康雄氏の晩年期に親交を持ち、薫陶を受けた。そのため、根本さんは蕎聖最後の弟子ともいわれている。
 同店の代名詞ともいわれるそばが、更科粉をつなぎなしで打つ「さらしな生一本」。更科そばは、ソバの実の中心部分から少量しか採れない更科粉が使われている。この更科粉はデンプン質を多く含み、色が白いのが特徴で、打つと歯切れがよく、喉越しのよいそばに仕上がる。
 一方で、更科粉は高純度のデンプン質であることから他のソバ粉よりも繋がりにくく、そば打ちの際には高い技術が必要になる。つなぎを用いない生一本ともなるとその難易度は推して知るべし。それに加えて、同店のさらしな生一本の麺体は一寸六十本(0.5mm五以下)と極端に細い。一般的なそばが大体、一寸二十三本(約1.3mm)という尺度で切られていることを考えると驚異的だ。
 片倉氏は生前、「更科の生一本を一寸六十本で打てるようになってこそ初めて旨い二八そばが完成する」と度々語っていたという。
 根本さんはそば打ち技術を継承していくため、「『蕎遊庵』そば打ち教室」を主催しており、定期的にそば打ち技術を発表する場を設けている。そうした催しの一つである「足利で蕎麦を語るフォーラム」が、2月17日に開催された第16回をもって終演を迎えた。同フォーラムは2009年より、そば打ちの技術・味覚の向上を図ることを目的に毎年開催されてきた。新型コロナウイルスの影響によって、21年より開催を見送っており、3年ぶりの開催となった。
 第16回目となる「足利で蕎麦を語るフォーラム」では、17名が参加。プログラムに沿って、それぞれ培ってきたそば打ち技術を披露した。また、参加者が打ったそばは持ち帰ることができ、それを目的にした一般のお客の姿も見られた。
 更科そば打ちを実演するプログラムでは、難易度の高い更科そばを巧みに打ちこなす参加者の姿が印象的だった。参加者の多くが水回しの際に水ではなく、熱湯を用いているが、これは根本さんが推奨する手法。加水時に熱湯を使うと、更科粉に含まれるデンプンが糊化するため繋がりやすくなり、食感も格段によくなるのだという。
 また、参加者の多くがエンボス加工の麺棒を持ち込んでいたことも印象的だった。このエンボス麺棒は、凹凸のある表面がそば生地に凹凸をつくり、薄くても丈夫な生地に仕上げる効果がある根本さん謹製の逸品だ。
 本フォーラムでは、更科そば打ちを披露する参加者以外にも、更科そばに一手間加えた、変わりそばの「ゆず切り」や、新潟名物の「へぎそば」、ユニークなアートそば等の技術を発表する参加者の姿もあった。蕎遊庵では、色付けした更科粉を用いたそばを、旬の食材を使ったフレンチ風のソースで頂くアートそばと題した創作そばを提供している。そのため、同店が主催するそば打ち教室でもアートそばを教えているのだという。
 本フォーラムの冒頭では、「『蕎遊庵』そば打ち教室」によるバラをテーマにしたアートそば打ち「薔薇の祭典」(写真3)が実演された。そば生地でつくられたバラのブーケを延すと、バラの図柄が現れるというもので、成功した際には多くの聴衆から歓声が上がった。
 他にも、参加者の手による「イチゴのアート」そばや、鞠をモチーフにした「アート五色蕎麦」のそば打ち実演が行われた。
 そして、本フォーラムの最後には根本さん自ら、普段自身のお店で打っている二八そばの作業を実演し、有終の美を飾った。水回しから延しまでの手順を終わらせると、根本さんはそば切りに取りかかる。素早く、均一にそば切りの作業を進める根本さんの姿に会場からは拍手が起こった。



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